「早起きは三文の徳」は本当か?【第1回】
「早起きは三文の徳」という、ことわざがあります。
私自身は朝型体質なので、朝のうちに大事な仕事や勉強を済ましてしまいますが、世の中には夜型体質と呼ばれる人たちもいます。
こういった体質の違いは生理学的にはクロノタイプと呼ばれています。
ではこの「早起きは三文の徳」は、どのようなクロノタイプの人にもあてはまるのでしょうか。これについては興味深い研究があります。
この研究では中学生と高校生を対象に、一定期間の間、
- 早朝クラス(7:45~)
- 日中クラス(12:40~)
- 夜間クラス(17:20~)
に振り分け、クロノタイプと成績の関係について調べています。
結果を述べると、朝型体質の生徒は、早朝クラスに振り分けられた場合、成績が良かったものの、日中クラスや夜間クラスに割り振られた場合はそうではないこと、また夜型体質の生徒は、夜間クラスに振り分けられると成績が良くなることが示されています。
つまり朝型体質の生徒は朝に勉強することで成績が上がり、夜型体質の生徒は夜に勉強することで成績が上がるということになります。
このように自分のクロノタイプに合わせたタイミングで勉強することが大事なようですが、なぜ人によってクロノタイプが違うのでしょうか?
これにはサーカディアンリズム(概日リズム)というものが関わっています。サーカディアンリズムはいわゆる体内時計で、平均24.2時間で一周しますが、これにも個人差があります。
朝型体質の人は、サーカディアンリズムが24.2時間より短く、夜型体質の人は24.2時間よりも長いことも知られています。
さらにこのサーカディアンリズムの長さは遺伝によってだいぶ決まっていることも報告されています(※2)
このように生まれつき持ったサーカディアンリズムの長さでクロノタイプが大分決まってくるのですが、日本人を対象にした研究では、およそ3割近い人達が夜型体質であることも報告されています。(※3)
(※3)三島 和夫, 3)社会的ジェットラグがもたらす健康リスク, 日本内科学会雑誌, 2016, 105 巻, 9 号, p. 1675-1681
これらをまとめると、
・朝型体質や夜型体質は、遺伝に大きく影響される。
・日本人の約3割は夜型体質である。
・朝型体質の人は朝に、夜型体質の人は夜に勉強するほうが成果が上がる。
ということになります。
こういったことを考えると、夜型体質の人には必ずしも「早起きは三文の得」とは言い切れないかもしれません。無理せず夜に教科書を広げた方がよい人もいるのではないかと思います。
とはいえ、上のグラフを見てもらえばわかるように、約4割の人は朝型でも夜型でもない中間型となっています。
早起きしている人ならわかると思いますが、早朝は誰の邪魔も入らない静かで使い勝手の良い時間でもあります。少し頑張れば早起きできそうな人は、試しに早い時間に布団に入ってみるのも良いのではないでしょうか。
【参考文献】
(※1)Goldin AP, Sigman M, Braier G, Golombek DA, Leone MJ. Interplay of chronotype and school timing predicts school performance. Nat Hum Behav. 2020;4(4):387-396. doi:10.1038/s41562-020-0820-2
(※2)Kalmbach DA, Schneider LD, Cheung J, et al. Genetic Basis of Chronotype in Humans: Insights From Three Landmark GWAS. Sleep. 2017;40(2):zsw048. doi:10.1093/sleep/zsw048
(※3)三島 和夫, 3)社会的ジェットラグがもたらす健康リスク, 日本内科学会雑誌, 2016, 105 巻, 9 号, p. 1675-1681
【シュガー先生 プロフィール】
本名:佐藤洋平(さとう ようへい)
脳科学専門のコンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表。理学療法士。現在富山大学医学博士課程にて心と体の関係についての研究を行う。
日本最大級の脳科学ブログである「脳科学 心理学 リハビリテーション」にて、ヒトとはなにか、をテーマに脳科学を超えて学際的な立場から記事を執筆中。
趣味は料理、人間観察、読書(人間に関するものであれば社会学から哲学、経済学まで全般)、語学(フランス語)。
屋号のオフィスワンダリングマインドは、心理学のmind wandering(心のお散歩、ぼんやり頭、ひらめきの源泉)に由来。