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心理学&脳科学
教えてシュガー先生

「朱に交われば赤くなる」:そのこころは?

デフォルトモードネットワークと「こころ」の変化

「朱に交われば赤くなる」
ということわざがあります。

これは誰と付き合うかで、
その人の在り方が変わってくることを意味します。
しかし、なぜそのようなことがおこるのでしょうか?

今回の記事では、脳の中にあるデフォルトモードネットワークを
キーワードに考えてみたいと思います。

そもそも「こころ」とはなにか?

私たちは、付き合う人によって、
こころのあり方が変わってきますが、
この「こころ」とは一体どのようなものなのでしょうか?

日々の生活のことを振り返ってみても、
私達の「こころ」は多面的です。

職場では厳しい上司も
家に帰れば優しいママになるかもしれませんし、
夫や友人の前ではまた違う顔をのぞかせるかもしれません。

このように私達の「こころ」は
置かれた状態によって変化しますが、
こういった「こころ」は一体脳のどこで作られるのでしょうか?

「こころ」とデフォルトモードネットワーク

脳の中には様々な種類のネットワークがあります。
その中には理性にかかわるものや、感情にかかわるもの、
意思決定にかかわるものなど様々なものがあります。

そういったネットワークの中でも「こころ」にかかわるものがあり、
これはデフォルトモードネットワークと呼ばれています(※1)。

このデフォルトモードネットワークは、
上司としての「こころ」や母親としての「こころ」、
妻としての「こころ」など
様々な「こころ」を生み出すことがわかっています。

しかし、なぜ同じ脳から異なる「こころ」が作られるのでしょうか?

デフォルトモードネットワークと異なる「こころ」

デフォルトモードネットワークは、
他のネットワークとつながって働いています。

具体的には、理性や感情、意思決定、運動感覚にかかわるネットワークと
密接につながっています(※2)。

いくつかの研究から、デフォルトモードネットワークの働き方が変わると、
他のネットワークとの繋がり方も変わり、
結果として「こころ(≒認知感情行動パターン)」が
変化
することが示されています(※2)。

では、このデフォルトモードネットワークは
一体何に影響されて変わるのでしょうか?

デフォルトモードネットワークに影響を与えるもの

デフォルトモードネットワークに影響するものとしては、
いくつかの種類の感覚情報があります。

一つは今現在、あなたが感じ取っている感覚情報になります。

そのうちの一つは体の外側からやってくる感覚情報で、
例えば目の前に犬がいたり、子供の笑い声が聞こえたりといった
目や耳から入ってくる情報になります(下図の「感覚的な文脈」)。

もう一つの感覚情報は体の内側からやってくるもので、
胸がどきどきしたり、体が火照ったりという情報になります
(下図の「内受容感覚」)。

こういった感覚情報に加えて、もう少し大きな形の情報があり、
これは社会的文脈と呼ばれるものになります。

これは、会社にいるのか、家の中にいるのか、
あるいは同窓会の場にいるのかといった社会的な情報になります。

こういった情報は脳の中に取り込まれ、
そこに記憶や信念といった要素が加わることで
デフォルトモードネットワークが変化し、
「こころ(≒認知感情行動パターン)」が
変わるのではないかと考えられています(※2)。

このように私達の「こころ」は、感覚情報だけではなく、
社会的文脈によっても影響を受けますが、
上の図を見てもらえばわかるように、
社会的文脈の中には「人間関係」や「隣人」といった要因もあります。

では、なぜ他人の存在が脳の働きを変えるのでしょうか?

脳の同調現象と社会性

私達の脳は外部の刺激と同調する傾向があり、
これは脳の引き込み現象と呼ばれれています。

この引き込み現象は物理的な現象(音刺激や光刺激)でも起こりますが、
他者との関わりでも起こることが知られています。

ある研究では、対面して話し合う二人のデフォルトモードネットワークが
徐々に同調していくことが報告されています(※3)。

その意味で、ともに過ごす相手というのは、
デフォルトモードネットワークを変える大きな要因であるともいえます。

昔の徒弟制度では住み込みの修行もありましたが、
あれはある意味、師匠の「こころ」と同調させるための
方法であったかもしれません。

まとめ

 ・「こころ」はデフォルトモードネットワークで作られる。
 ・社会的文脈でデフォルトモードネットワークの活動は変化する。
 ・他者との交流でデフォルトモードネットワークが変化し、
「こころ」の同調現象が起こる。

このように私達の「こころ」は
いくつかの働きを通して柔軟に変わりうるのですが、
では、私たちは自分を変えるために一体何ができるのでしょうか。

一つは環境を変えることでしょう。
私達の「こころ」は環境で変わります。

「こころ」を変えるのは簡単ではありませんが、
環境を変えるのはさほど難しくはありません。

向上心の高い人に囲まれることで、あなたの脳が変わり、
「こころ」が変わるということもあるかもしれません。

もし気になる勉強会があるのなら、
一つ参加してみるのもいいかもしれません。

心機一転、「こころ」の染め直しにトライしてみましょう!

【参考文献】

※1 Raichle, M. E. (2015). The brain’s default mode network.
Annual review of neuroscience, 38, 433-447.

※2 Koban, L., Gianaros, P. J., Kober, H., & Wager, T. D. (2021). The self in context: brain systems linking mental and physical health. Nature Reviews Neuroscience, 22(5), 309-322.

※3 Nguyen, M. L. (2020). Shared and idiosyncratic neural processing of naturalistic communication in the default mode network (Doctoral dissertation, Princeton University).

シュガー先生【シュガー先生 プロフィール】
本名:佐藤洋平(さとう ようへい)
脳科学専門のコンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表。
理学療法士。
現在富山大学医学博士課程にて心と体の関係についての研究を行う。
日本最大級の脳科学ブログである「脳科学 心理学 リハビリテーション」にて、ヒトとはなにか、をテーマに脳科学を超えて学際的な立場から記事を執筆中。