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心理学&脳科学
教えてシュガー先生

「案ずるより産むが易し」なぜあなたは案じすぎてしまうのか?

「案ずるより産むが易し」

ということわざがあります。

「あれこれ考えているよりも、実際にやってみると、
思っていたよりも簡単にできること」を意味しています。

とはいえ、新たに何かをするというのは中々勇気がいることでもあります。

今回の記事ではなぜこのようなことが起こるのか、
行動経済学の視点から考えて見たいと思います。

 

「行動経済学」について

行動経済学というのは、リアルな人の心を捉えて経済の仕組みを解き明かそう
という学問分野になります。

もともと経済学では人間は合理的な生き物だとという前提で研究が行われてきました。
ところが実際のところ、私達人間はそれほど合理的な生き物ではありません。

落語の主人公ではありませんが、私たちは往々にして感情に振り回されて
不合理な行動を取ってしまいます。

行動経済学はこの辺の人間の機微を取り込み、
経済活動を説き起こそうとするものです。

行動経済学にはいくつかの理論があるのですが、
よく知られたものとして
「損失回避性」と「限定合理性」というものがあります。

では、この2つはいったいどういったものなのでしょうか。

「損失回避性」とは

「損失回避性」というのは、
得をするよりも損をしない方を選んでしまう
ヒトの性質のことを示しています。

例えば、

  1. 二分の一の確率で100万円をもらえるが、
    二分の一の確率で50万円を損する。
  2. 確実に20万円もらえる。

という2つの判断を考えてみましょう。

合理的に考えれば、もらえる期待値は、
①が25万円(+100万円と-50万円の平均値)
②が20万円で、①を選んだ方がお得なのですが、
私たちはついつい②の20万円を選んでしまいます。

このように私達には、
損を避ける方へ重きをおいてしまう心の癖があり、
これが「損失回避性」と言われるものになります。

これを逆手に取って広告へ利用したものは日々よく見かけますね。

PLAN-B – 株式会社PLAN-B マーケティング活動に活かせる行動経済学の基礎知識5選 | POINTO! by PLAN-B

では、もうひとつの限定合理性とはどのようなものなのでしょうか。

「限定合理性」とは

「限定合理性」というのは、私たちは合理的には振る舞うけれど、
それは限られた情報の範囲だけである、という考え方になります。

合理的に考えるにはすべての情報を知っている必要があります。
ところが私たちは神様でないので、
すべてのことを知ることはできません。

その結果、私たちは自分が知っている範囲で
判断をすることになります。

私たちは合理的であろうとするのですが、
手元にある情報は限られているため、
最適な答えを出すことができません。


「ロジックとして正しい」は正しい?論理的思考と限定合理性
ぽいさん@広告業界のB’z信者|note

このようにヒトの思考は合理的ではあるけれど、
あくまで限られた情報の中で判断するために、
真に合理的であることができない、というのが
「限定合理性」というものになります。

「案ずるより産むが易し」と「行動経済学」

このように、損失回避性というのは
損を避けることを優先する思考パターンであり、

限定合理性というのは
限られた情報だけで考えてしまう思考パターンでしたが

これがなぜ「案ずるより産むが易し」に関係してくるのでしょうか?

「案ずるより産むが易し」が問われている状況というのは、
未知の状況に飛び込むか、それとも現状維持を取るかという
2つに1つの判断が迫られている状況になります。

例えば「転職」ということを考えてみましょう。

転職というのは未知の世界に飛び込むことです。

未知の世界であなたは
どれくらい幸せになれるのかは分かりません。

ひょっとしたら100点に近い幸せかもしれませんし、
あるいは30点くらいの幸せかもしれません。

ところが今の仕事をしていれば、
確実に50点の幸せは手に入ります。

こういった状態では、
知っている情報だけで考える「限定合理性」と

損は極力避けたいという「損失回避性」が働いて
おそらくは現状維持に方に判断が傾いてしまいます。

損失回避性と限定合理性を突破するには?

このように人間は未知の事柄に対しては
二の足を踏むようにできているのですが、
これを突破するにはどうすればよいのでしょうか?

一つは、最悪の事態をしっかりと考えてみることでしょう。

例えば、会社をやめて独立するときのことを考えてみましょう。
ひょっとしたら予想外の出来事が起こり、
1年間まったくお金が入ってこないかもしれません
(私、シュガーの場合は独立直後にコロナショックがやってきました)。

こういった最悪の状態を考えて、それでもやりたいか、
やるとしたらどれくらいの準備が必要かを考えることができれば、
損失回避性による決断の先送りは回避できるかもしれません。

もう一つは、しっかりと情報を集めることでしょう。

情報の質としては、インターネットよりも本、
本よりも人、人よりも経験が高い
かと思います。

情報が多ければ多いほど、より妥当な判断を下せるようになります。

本が出ているのであれば本を読み、
人に会えるのであれば会ってみて、
可能であればお試しで経験してみるのもよいでしょう。

本を読むことも人と会うことも何かを経験することも、
今の時代はハードルが低くなっています。

案ずるより産むが易し。ぜひ試してみましょう。

まとめ

ここまでを簡単にまとめてましょう。

・私たちは損をしない方に重きをおく思考の癖がある。
→これを「損失回避性」とよぶ。

・私たちは知っている情報だけで判断する思考の癖がある。
→これを「限定合理性」とよぶ。

・最悪の状態を考えることと質の高い情報を大量に集めることで、
これらの思考の癖に対処できる。

 私自身の経験で言えば、自分で判断して、
その結果失敗しても後悔することはありません。

後悔しているのは、できるときにやらなかったことや、
他人の判断にまかせて失敗したときだけです。

当たり前ですが、何かができるのは生きている間だけです。
また、50歳を目の前にして思うのは、
案外人生は足早に過ぎていくということです。

損を避けたいというのであれば、
やりたいことをしないことが最大の損かもしれません。

挑戦から生じる損は、
やらなかった後悔から生じる損に比べればたかが知れています。

案ずるより産むが易し。
さぁ、案じることなくやってみませんか。

【参考文献】
・ダニエル カーネマン著、村井 章子翻訳(2012年) ファスト&スロー 早川書房
・ダン アリエリー著、熊谷 淳子翻訳(2013年) 予想どおりに不合理 行動経済学が明かす
「あなたがそれを選ぶわけ」 ハヤカワ・ノンフィクション文庫

シュガー先生【シュガー先生 プロフィール】
本名:佐藤洋平(さとう ようへい)
脳科学専門のコンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表。
理学療法士。
現在富山大学医学博士課程にて心と体の関係についての研究を行う。
日本最大級の脳科学ブログである「脳科学 心理学 リハビリテーション」にて、ヒトとはなにか、をテーマに脳科学を超えて学際的な立場から記事を執筆中。